なんでか男扱いされてる件について

※3章までのネタバレあり
※女監督生夢主

 ナイトレイブンカレッジという魔法学校に0.5人の生徒として籍を置くようになり、オンボロの寮でモンスター及びゴーストと一つ屋根の下で暮らすこと数週間、やっと生活には慣れてきたものの、わたしはなんとなく違和感を覚えるようになっていた。魔法などというトンチキ文化に気を取られて見逃していたが、生活が落ち着くにつれ、その違和感は日に日に大きくなる。そろそろ見逃せなくなってくる頃合いだった。

「あ~~~~やっと授業終わった! 腹減らね? 購買行こうぜ、監督生」
 エースはわたしの隣の席で大きな伸びをした。不真面目で堪え性がなく、底意地が悪いが、なぜだか憎めない不思議な魅力を持つクラスメイトだ。紆余曲折あり、なんやかやと文句を言いつつわたしやグリム、デュースと行動をともにすることが多い。喧嘩するほど仲がいいというやつだろうか。仲がいいのはよいことだが、喧嘩の発生頻度が高いのが玉に瑕だ。どうにか喧嘩をしないで仲よくすることはできないもんか?
 わたしはエースの誘いを快諾し、先生の話を子守唄に舟をこいでいたグリムを揺さぶって起こした。エースはデュースにも声をかけたようで、三人と一匹で教室を出る。廊下は授業終わりではしゃぐ男子生徒であふれていた。勉強が嫌いなのはどこの世界も共通だ。わたしが見慣れた世界と違うのは、みんな魔法を使って遊んでいるところだろうか。魔法を使用しての私闘を禁ずる校則はあるようだが、こういう遊びは禁止されていないらしい。とはいえ、遊びがエスカレートして喧嘩に発展するのはまあ、男の子にはよくあることだ。グリムとエースがいい証拠で、それで学園長に大目玉を食らったことはこの短期間でカウントしても一度や二度ではない。
 グリムはまだ少しうつらうつらしていた。「おい起きろよグリム~」と、エースがグリムのほっぺたをつついている。「どうせ購買についたら起きるよ。ゴハンのにおいがするから」と、エースの手をとめた。グリムが怒ると面倒だ。エースだって寝てるところを邪魔されたら怒るくせに、結局似たものどうしなのだ、このひとりと一匹は。エースはちぇーとかなんとか言ってグリムに構うのをやめた。
 購買部にはいろんなものが売っている。わたしが元いた世界の購買部といえば、菓子パンと文房具が関の山だったが、ここはどうだ。(おそらくサムの趣味なんだろうが)使い道のわからない道具が山ほど置いてあって、来るたびに新たな発見がある。変な道具をさわって痛い目を見ることがまれにあるが、いまのところ被害にあっているのはデュースとグリムくらいだった。彼らの辞書には警戒心というものがない(エースはこういうのは器用に回避したりするのだ)。
 購買に漂う甘い香りで、グリムは完全に目を覚ましたようだった。グリムたちがお菓子類を物色しているあいだに、わたしはおそらく服飾関係をまとめようとしたのだろうが最終的にサムらしく雑多な世界観になってしまった一角を眺めることにした。独特のデザインの指輪やピアス、置物なんかが売っていた。購買らしく制服のネクタイも隅のほうに置いてある。どうやら制服は一式まるごと買えるようになってるみたいだ。幸いわたしは汚したりしたことはないけれど、魔法でしっちゃかめっちゃかにしてここにお世話になる生徒も一定数いるんだろう。グリムがモンスターでよかったなあ。人間だったら制服だけでどれだけかかるやら。なんせ彼が出すのは炎だ。制服もすぐ黒コゲになってしまうに違いない。
「……うーん?」
 制服になんとなく違和感を覚えて、わたしはうなった。
「どうした、制服の替えでも買うのか?」と、一足先に会計が終わったデュースが声をかけてきた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
 制服のジャケットとスラックスを眺める。わたしも彼らと同じ制服を着用しているわけだけれども。
「なんか変だなと思って」
「ん?」
「なんだろう……」
 デュースもわたしと一緒に制服を眺めた。そういえば、デュースはナイトレイブンカレッジに並々ならぬ憧れがあるんだったっけか。毎日着ている制服でも、見飽きたりしないのかもしれない。
「ああ、そうか。女子の制服がないんだ」
 わたしが手をたたくと、デュースは驚いた顔でこちらを見た。
「なに言ってるんだ? ここは男子校だぞ?」
「え?」わたしはたっぷり間をおいてもう一度言った。「え?」
 周囲を見る。男子生徒ばかりだ。そういえば、朝から晩まで男しか見ていない。なんならグリムだってオスだ(いや本当にオスかどうかは確かめたことないけど)。
「まさか監督生、今の今まで気がついてなかったのか?」
「そうみたい。はは……」
「逆に肝が据わってるな。お前のそういうところ、僕はいいと思う」
「うん、ありがとねデュース」
 わたしは曖昧な笑みをデュースに向ける。エースとグリムが喧嘩しながら会計から戻ってきて、それを仲裁しながら教室に戻った。
 魔法という未知の存在を受け入れて、オンボロ寮を片付け寝起きし、グリムが悪さをしないかどうか気をつけながら、ちんぷんかんぷんな魔法に関する授業を受ける。この数週間、わたしはよくがんばったほうだと思う。ナイトレイブンカレッジが男子校であることに気がつかないのも無理はない(かもしれない)。
 いや、それよりももっと大きな理由がわたしにはあった。
 わたしの性別である。
 女のわたしが籍を置いてるんだから、そりゃ男子校とは思わないよね。


 ……わたしはもしかすると、みんなに男だと思われているのかもしれない。この仮説は冷静に考えるとおかしな話だ。わたしは元の世界で男と間違えられたことはなかった。今はたしかにみんなと同じ男子の制服を着用しているが、体型が違いすぎる。致命的なほど貧相な胸部をしているわけでもない。でも、デュースが笑顔で女のわたしに向かって「ここは男子校だ」と言い放ったことを考えると、やっぱりそう考えないとおかしいのである。いや、それともグリムとわたしでひとりの生徒だから、グリムがオスなら在籍できるのか? そんなバカな話ある?
 彼らはわたしの性別をどう認識しているのか。いまさらエースやグリムに面と向かって「わたし女なんだけどさ」と言い出すのも気が引けた(仮にわたしのことを正しく女と認識していたとしても「は?」だし、逆でもなおのこと「は??」となるシチュエーションだ。元の世界に帰る方法もわからない今、彼らとは今後もうまくやっていきたい)ので、ふわっと探りを入れることにした。
 まずはいちばん簡単そうなグリムからだ。
「グリム、一緒にお風呂入ろうよ。洗ったげる」
 これは前々から思っていたことだった。グリムはまあ、猫(型モンスター)だということもあってだろうか、あまり風呂に入りたがらない。住んでる場所はこんなだし、外ではエースと一緒に暴れまわるし、できれば毎日体を洗ってほしいのだけれども、しつこく言ってやっと烏の行水だ。お風呂というより「体を濡らしました」という感じで、もはや烏の行水以下。それはそれで風邪を引きそうだからやめてほしいのだけれども。
 とにかく、そんなにいやなら一緒に入ってしまおう、という魂胆がわたしにはあったのだ。猫を洗ったことはないけど、意思疎通もできるしなんとかなるだろうと。
「ふな"ッ!?」グリムはすっとんきょうな声を上げた。
「女の子がそういうこと言っちゃダメなんだゾ!」
「え、あ、そこ?」
「はれんちなんだゾ!」
「うわわ」
 本格的に怒り出したグリムはポッポッと小さな青い炎を出しはじめた。やばい、寮が燃える。「はれんち!」と憤るグリムに、わたしはあわてて「ごめんごめん」と謝って、明日購買部でツナ缶を買うことを約束してなんとかなだめた。いやあ、難しい言葉を知ってるね、グリム。
「もう絶対にそういうこと言っちゃダメなんだゾ」
「わかったよ」
 ツナ缶と聞いて怒りの炎をしずめたグリムだったが、まだ文句を言っている。グリムは思ったより常識のあるモンスターみたいだ。彼に対する認識を改めなくてはいけない。
 そしてなにより、グリムはちゃんとわたしのことを女だと認識している。女だと認識しながら、男子校に身を置いていることになんの疑問も持っていないのは謎だったが、モンスターだから、そういうことにはあんまり気が付かないのかもしれない。

 さて、お次はエースだ。グリムと違って、万が一同伴入浴を了承されても困る(し、グリムが怒る)ので、ちょっと別のアプローチを考えよう。お風呂とまではいかなくとも、年頃の男子が女子に言われて多少動揺する言葉。仮に事故ってもリカバリーがきくとなおよい。
 わたしは半歩前を歩くエースの手をとった。エースが頭だけでこちらを振り返る。
「なに?」
「エース、手ぇつなごう!」
「は? なに急に、気持ち悪いんだけど」
「あ、あれ?」
 かけらも動揺してない。エースは眉をひそめてこちらを見下ろしている。エースって思ったより背が大きいんだな、と場違いなことを考えた。なんだか所作が子どもっぽいから、もっと小柄なイメージがあったんだけど。え、わたしらもっと目線近くなかったっけ?
「わりいけどほかあたってくれる?」
「いやごめん、冗談だって! そんな冷たい顔しないで!」
 エースの表情に心が耐えきれなくて謝罪した。グリムといい、なんでわたしは毎回謝り倒しているんだ。
「ちょっとからかうつもりだったの!」
「ふぅん?」わたしの決死の弁護に対し、エースは目を細めている。いやあな顔だ。「なーんか、お前違うこと考えてねえ?」
「考えてないよお……」
 ばれている。エースは変なところで鋭い男だった。座学の成績は悪いが、人の機微に聡いのだ。普段はあんなに適当に生きているくせに、人の隙を突くのがうまい。苦し紛れに否定はしてみたものの、もうエースはわたしの目的が別にあったことに気がついているだろう。とはいえ、前述のとおり「わたし女なんだけどさ」と馬鹿正直に白状するわけにもいかない。困った。
「からかうってのはこうすんだよ、監督生」
 エースはにやりと笑って、わたしの腰に手をまわして引き寄せた。急な動作に驚いて、バランスを崩す。なんとか転ばずに済んだが、顔をエースの体にしたたかにぶつけた。
「いったぁ……。ちょっとエース!」
 さすがに異議申し立てを試みたわたしだったが、顔を上げたその瞬間、目と鼻の先にエースの顔があって言葉に詰まってしまった。エースはまだにやにやと笑っている。意地の悪い顔だが、同時にイキイキしている顔だ。
「どう? ドキドキした?」エースが小声でそう言った。
「はあ!? し、してない!」
「ふははっ、声でけー。じょーだん、じょーだん。からかっただ、け!」
「からかっただけなら離してよ!」
 離れようにもエースの腕が邪魔でできない。できうる限り暴れたが、どう考えても分が悪かった。わたしの不毛な抵抗はデュースが近くを通りかかるまで続き、エースはデュースの「なにしてるんだお前ら」の一言でわたしを解放した。
「これに懲りたらもう二度と変なからかいかたすんじゃねーぞ」
 エースはそう言い残してこの場を去った。
「お前、エースになにをしたんだ?」
「聞かないで」
 このやりとりが行われたのはナイトレイブンカレッジの廊下であり、デュース以外にも多数の目撃者がいたことを申し添えておく。

 エースの一件、わたしがまんまと仕返しを食らったことはさておいて、エースがわたしの性別をどう認識しているのかは結局よくわからなかった。手をつなごうという提案には、動揺するどころか断固拒否といった態度だったし、そのわりには突然距離を詰めたり、考えが読めない。エースが女の子にあんなことするか? という気持ちと、いや仮に男だと思ってたとしても距離近すぎん? という気持ちが錯綜している。わたしのことを男と思っていようが女と思っていようが、エースの行動はいささか距離感がおかしかった。デュースに同じことをするかといったらしなさそうだし……。エースという男はよくわからない。
 うーん、と悩んでいたらデュースが「なにか悩みでもあるのか?」と声をかけてきた。わたしが授業中上の空だったのを心配しているようだ。なんでも聞いてやるぞ、といわんばかりの顔をしている。
 デュースは嘘がつけない。喧嘩早いし、物事を物理的に(主に拳と大釜で)解決しようとする物騒な男だが、基本的には素直で純粋ないいやつだ。これがエースなら裏でなにを考えているのか疑ったりもするが、デュースならまず間違いなくただ純粋に友人のわたしを心配してのことだろう。彼はぜんぶ顔に出てしまうから、それは疑いようのないことだった。
「わたしってそんな男っぽいかな?」
 そう聞いてみると、「え?」とデュースは面食らったような顔をした。
 これは言葉のチョイスを間違えたか、と不安を覚えたが、デュースはすぐに笑顔になり、「ああ、監督生はすごく男らしいと思うぞ。俺はダチとして誇りに思う!」と言った。
 嘘は言っていないだろう。そういう顔だった。デュースなら、わたしが男でも女でも、同じことを言うんだろうと思った。女の子が相手でも、自分がそう思ったならなんのためらいもなく「男らしい」と発言する。実にデュースらしかった。
「あはは」
「監督生?」
「デュースこそ、男らしくって素敵だよ」
「そ、そうか?」
 デュースは照れたのか、わたしから視線を外してしまった。でもうれしそうな顔を隠せていない。かわいいやつだ。
「なんでお前らお互いのこと褒めあって照れてんの?」
「なんか気持ち悪いんだゾ」
「はあ~~~、エースはいやなやつだなあ!」
「なんでオレだけ!? 関係なかったじゃんいまの!」


 わたしの努力むなしく、エースとデュースがわたしの性別をどう認識しているのかについては、結局わからずじまいとなってしまった。彼らがわたしを男だと思おうが女だと思おうが、よき友人であることには変わりがないので、もはやこのままでもいいかと思いはじめていた。エースとデュースだけではない。リドル寮長や先輩がただって、わたしとグリムにはとてもよくしてくれる。男だ女だなんてことは、非常に些末な問題だ。性別なんて関係なく、わたしは彼らとよりよい関係を築いていこう。
 と、いい感じに結論をまとめようとしていた矢先、わたしは思いがけなく彼らの認識を知ることになる。

 オクタヴィネル寮の寮長アズール・アーシェングロットと契約を締結するにあたり、担保として差し出したオンボロ寮を追い出されたわたしとグリムは、野宿を余儀なくされることとなった。学園長から衣食住を盾に脅されて受けた依頼によって住を失うはめになるとは、本末転倒にもほどがある。オクタヴィネル寮のリーチ兄弟によれば、オクタヴィネル寮の宿泊料は一泊一万マドル。学園長から最低限のお金しかいただいていないわたしにはとてもじゃないが泊まれるはずもない。グリムがいれば外でも明かりに困ることはないだろうけれど、ことと次第によっては今後も宿無し状態が続くことになってしまう。それだけは避けなければならなかった。
 イソギンチャクを頭に生やしたグリムがべそべそと泣き言を吐いている。いや、そもそものことの発端は卑怯な手段を使おうとした君たちにあるんですが……ちょっとは反省していただけませんかねえ。まあ、無理か。期待するだけ徒労である。
 いつまでも途方に暮れているわけにもいかないので、とりあえず雨風を凌げるような場所を探そうとしたとき、エースとデュース、そしてサバナクロー寮のジャックがやってきて、「ハーツラビュル寮にくるか?」と提案してくれた。なんと、リドル寮長が了承しているという。あのリドル寮長が、他寮の生徒を自分の寮に迎え入れると。なんてありがたい話なんだ。
「僕たち一年生の四人部屋でいいなら、雨風をしのげる場所を提供できるぞ」
 …………ん?
 デュースの言葉に妙な引っかかりを覚えた。ジャックも「四人部屋にさらにひとりと一匹を押し込むつもりなのか?」などと言っている。そうだよねベッドも四人分すべて埋まってるわけだから、わたしがお邪魔したら相当狭苦しくなっちゃうんじゃない? エースとデュースのほかに、わたしの知らないルームメイトも二人いるんでしょ? その人たちにも迷惑だよね。
 ていうか、男子四人で寝てるところに女子生徒放り込むつもりなの? 本気で言ってる?
 ハーツラビュル寮は、退学者も留年者もいないから、部屋が常に満室らしい。もはやそれならぜんぜん廊下とかでもいいんですけど。雨風さえしのげるなら。いや、できれば毛布も提供していただけるとうれしい。
「だったらサバナクロー寮にくるか?」
 ジャックの提案にはわたしだけでなく、エースたちも驚いた。ハーツラビュル含めどこの寮もだけれど、サバナクローはことさら他寮の生徒に排他的な印象があったからだ。ジャックはこう言ってくれているが、果たしてレオナ寮長たちが許してくれるんだろうか。寮長に許可をとっているようには見えない。あそこの談話室って屋外じゃなかったっけ? 怒ったサバナクロー寮生にあんなところへ放り出されたら実質野宿になってしまう。
「そっちのほうが監督生もゆっくり休めるんじゃないか?」
「ウチの寮だと、床に寝るか、オレかデュースのベッドで一緒に寝るかになっちゃうしねー」
「えっ!?」
「あれ? もしかしてそっちのほうがよかった?」
 そんなわけがない。わたしは思いきり首を横に振った。エースは「ほんとにぃ? 無理してんじゃないの?」とにやついている。からかわれているのか、本気なのか。願わくば前者であってほしいものだった。わたしがなにも考えずに頷いたらどうするつもりなんだ。ほんとに一緒に寝るつもりなのか?
「さ、サバナクローでお世話になります!」
「そうしたほうがいい。リドル寮長にも報告しておく」
「なーんだ、つまんねえの」
 つまんないとはなんだ、つまんないとは。わたしはエースの頭に生えたイソギンチャクをつかんで力の限り引っぱりたい衝動に駆られたが、思ったよりイソギンチャクが高い位置にあり、さすがにやめた。
 お前の! それのせいで! こうなってるんだからな!

 ジャックの案内でサバナクロー寮に赴いたが、空き部屋は長いこと掃除をしていないどころか物置と化しており、人を泊められる状態ではないらしく(オンボロ寮の寮生としてはそれでもぜんぜん構わないのだけれど)、結局レオナ寮長に宿泊を却下されてしまった。薄々こうなるのではないかと思っていた。隣に立つジャックを見上げると、安請け合いした手前ばつの悪そうな顔をしている。
 ぜんぜん廊下とかでもなんでもいいので、と申し出ようとしたとき、ラギー先輩が「いいこと考えた!」という顔でとんでもないことを言った。
「レオナさんの部屋で寝たらいいんじゃないっすか?」
「はあ?」
 わたしとレオナ寮長が同時に声を上げる。聞けばレオナ寮長は寮でいちばん大きいひとり部屋を使っているそうで、ひとりと一匹くらい増えたところで、そんなに問題はないみたいだった。結局床に寝ることにはなるようだが、布団も余っているようで、そこまでひどい待遇ではなさそうだ。部屋の主が主なので、好待遇かと言われると返事に窮するが。ライオンの部屋に放り込まれるって、あんまりいい気分じゃない。しかし、それを言い出すとサバナクロー寮に来てしまった時点でわたしは詰んでいた。エースがあんなことを言うから、サバナクローを選択してしまったんだ。恨むぞエース。
「レオナさん、召使いが部屋にいるのも慣れてるでしょ?」
「わたしは召使いじゃないんですが……」
「オレ様もだ!」
「まぁまぁ、野宿を免れるんだから悪い話ではないっすよ! ね!」
 ラギー先輩は場を掌握するのが非常にうまい。一度波に乗ったラギー先輩は誰にも止めることができない。寮長までもがラギー先輩に押され、結局あれよあれよという間に布団を運び込まれ、レオナ寮長の部屋で寝ることになってしまった。実質ライオンの檻に入れられたも同然である。
 グリムがいるとはいえ、女子生徒を男子生徒の一人部屋に突っ込むか、普通。いや、普通ではないから、つまりはそういうことなんだろう。
 わたしは間違いなく、周囲に男と思われている。改めて言葉にすると、これまでのいろいろなことが腑に落ちた。男子四人部屋に平気で泊めようとするハーツラビュルも、寮長のひとり部屋に泊めようとするサバナクローも、なんの疑問もなくわたしを男だと思っているからそうするのだ。彼らにとってはそれは自然な行動なのだ。そもそもの話、あの規律に人一倍厳しいリドル寮長が、わたしの存在を見逃している時点で「女子生徒として在籍している」はあり得ない話だった。なぜ最初に気がつかなかったのだろう。
 なぜかグリムだけがわたしを正しく女だと認識している。ていうかグリム、わたしのこと女だと思ってるならラギー先輩を止めてくれよ。一緒にお風呂はだめだけど、一緒に寝るのはいいの? それがモンスターの常識なの?
 おやすみ三秒してしまったサバナクローの王様の寝息が聞こえる。グリムもまぶたが重そうだ。今日はいろいろあったから疲れているんだろう。わたしも疲れた。安息(といえるかどうかはさておき)の場所を手に入れて、急に眠くなってきた。グリムもいるし、わたしのことを男と思っているのなら、変な間違いが起こることはないだろう。とにかく明日に備えて寝ることにした。
 晴れてみんなのイソギンチャクが消えて事態が落ち着いたら、学園長にこのことを聞いてみよう。もしかしたらなにか知っているかもしれない。たとえば、わたしをここに在籍させるために変な魔法をかけているとか、そういう話。だとしたらわたしにも教えておいてくれよという話なんだが、あの学園長ならばあり得なくはなかった。
 グリムの寝息が聞こえてきて、わたしもつられてまどろみはじめる。まあいい。繰り返すが、彼らとのあいだにおいて男も女も関係ない。ここまで問題がなかったのだから、これからもこのまま、仲良くできればいいと思う。わたしはそんなことを思いながら、眠りに落ちていった。